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龍と鳳

第9章 龍の過去ちらり

「ちょ、やめてよぅ」

「可愛いなぁ、ちくしょ~
お前だって尻に殻をくっつけたままアイツの後を追っかけてたくせによぅ」

「うるさいよ
オイラは翔と違ってすぐに飛ぶの覚えたもん」

「なんだ、ちびはまだ飛べないのか」

驚いた松兄の手が止まる。

「うん
本人も気にしてるけどね
何がいけないのかなぁ?」

「ん~羽ばたく感じがわかんねぇのかもな
お前の背に乗ってるんだろ?
龍は飛ぶっつっても実際は泳いでるからなぁ…」

「あ、そうかっ
だからだ!
ははははっ!!」

オイラは飛ぶ練習をしてる翔が妙に腰をくねらせることを思い出した。

あいつ、オイラが泳ぐみたいにすれば飛べると思ってるんだな。自分が翼持つ存在だって忘れてんだ?
うける!!

拗ねて唇を尖らせた顔を思い出すと笑えた。
何が交尾なんだか、ほんとにも~。

「…良かったよ、お前が笑ってて
ちびはあれでも鳳凰なんだろ?
きっと美しくなるぞ
余裕こいて笑ってられるのも今のうちだな」

松兄がいろいろわかってる風に言ったのに反論しようとしたとき、切羽詰った念話が飛んできた。
茂君だ。

『マー坊!!智君!!』

同時に鮮やかな映像が頭に流れ込む。



中腹にある東屋近く、しめ縄が張られた泉の前に、沢山の人の子が居た。

道の神の祠に無造作に掛けられた人間の衣服。

一本歯の下駄を履いた行者姿の大天狗がいる。
剛君と健君だ。

警告を無視したのか、人の子が唾を吐いた。
泉を守る結界の石に足を掛けたところで、怒った二人が人の子を団扇の風で吹き飛ばす。

斜面を転がり落ちていく先に居るのは。

翔ともう一人、人の子だ。
突然落ちてきた愚か者に巻き込まれて背中から倒れた。

そのまま団子になって滑り落ちていく。

「いかん!!」

隣に居た松兄が本性を解き放って身体を大きくし、羽音を立てて空へ飛び立った。

雪が溶けて間もない山肌は水を含んで滑りやすく、ブナ達の枝は高過ぎて網の代わりにはならない。

翔が小さな体で人の子を庇い、傷つかないよう必死に抱きしめているのが見えた。

あの先は昇龍の滝、空からでは間に合わない。
羽ばたき方を知らない鳥が滝壺に落ちたら、あの高さでは死んでしまう。

「神様!!」

オイラはお社に向かって走りながら本性を解放し水脈へ潜る。

「しょおっ!!!」

滝へ!

今すぐに、滝へ!!


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