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龍と鳳

第13章 人の子

オイラ達のやり取りを見て娘が笑う。

「ふふ……筒井筒、いつまでも仲良うなさってね」

「うん。
オイラ、親はいないけど、しょーちゃんがいるよ。
あっ、おまえ、お社まで来ればしょーちゃんにも会えるぞ。ぐあい悪そうだから、もう少し元気になったら上まで来るといいよ。神様が病もなおしてくださる」

「うん、そうだ。ここの神様はとてもご立派な神様だから、きっと元気になるな」

「……はい、そう致します」

この時は気づかなかったけど、岡田っちとオイラの会話で、娘はオレらが人ならぬ者だって分かったんだろうな。
丁寧な言葉になってオイラ達に頭を下げた。

「ご神水は全部おまえにやる。疲れがとれるから飲め。
迎えのものはまだ来ないのか?」

「尊いものをありがとうございます。
神様のお導きで……楽しかった……迎えも、もう間もなくでしょう。
アタシのことは、どうぞお気遣いなく……坊ちゃん方も、そろそろお戻りになってくださりませ」

娘はそう言って手を合わせた。

「どうする?」

「帰ろっか」

「んだな」

岡田っちがオイラに手を差し出したから、何となくオイラはそれを握った。

「んふふ。しょーちゃんみたい」

「先輩だから」

「はははっ。
じゃーな、いつかお社まで来るんだぞ」

「ご神水、飲むんだぞ」

手を振ったオイラ達を合掌したまま見送った娘は微笑みながら泣いていた。
オイラ達は、子供なりになんか人の子に対して良いことをしたような気持になって、ちょっと得意だった。





その晩。
寝る前の習慣で、いつものように星を眺めながら、オイラ達はしょーちゃんに昼間会った娘の話をした。
夕餉の時は熊野の天狗達の話を聴く方が忙しくて。それに、しょーちゃんに黙って勝手に人の子と話したことが言い難かったからさ。

内緒にしといた方がいいのかな、っても思ったんだけど、後からバレると余計に叱られる、って岡田っちも言うし。
別に悪いことをしたわけでもないんだから、と思って話したんだ。

そうしたら、しょーちゃんは話を聴くうちに段々と難しい顔になっていって。

「その娘はお迎えを待っていると言ったんだね?
近くに人の子の気配はあった?」

「えっ、わかんない。オイラ探らなかったから」

「そうか……智、岡田君、今日はもう寝なさい。布団を並べて敷いたからね」

しょーちゃんは作った笑顔で言った。

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