テキストサイズ

龍と鳳

第13章 人の子

ノロノロと腕を動かしてわずかばかり口に含んだ娘の頬に、ほんのりと赤みが差した。

「あぁ……なんだか、少し楽になりましたよぅ」

「熊野のご神水だ」

「へぇ……そりゃぁ尊い。大層なものを、ありがとうございます。
……坊ちゃん方は、里の子で?」

問われて岡田っちとオイラは顔を見合わせた。

『さっきの龍がオイラだって、気づいてないのかな?』

『そうだね』

念話でやり取りしていると、娘はオイラたちの返事を待たずに話し始める。

「おっかさんの言うことをよぅく聞いて、立派な大人になるんですよぅ。親よりも先に死んではなりませんからねぇ。それは親不孝ってもんです」

オイラは普段、お社に来る人の子しか知らないから、正直何を話したらいいのか分かんなかったんだけども。
お参りに来る里者に比べると、娘は着物も良いものに見えたし、言葉も訛りが少なかった。

『この辺のもんじゃないみたいだね』

『うん』

岡田っちも同じように感じていたらしい。

「アタシにもねぇ、息子がいるんですよぅ。丈夫に育ってくれるよう、最後に神様にお願いしにまいったんです。
お社まで行くのは、もう無理でしょうが……でも、今日は竜神様も見れたし、こんなにめんこい坊ちゃん方にも会えた……きっと願いを叶えてもらえますでしょう……若旦那さんと奥様の言うことを聞いて、しっかりした跡継ぎになってくれますねぇ……」

娘は嬉しそうに微笑んでた。
人の営みに疎かったオイラは、言われた意味が理解出来なくてさ。思わず声に出して言ったんだ。

「オイラ、親はいないよ」

「えっ……そっちの坊ちゃんは? 兄弟じゃぁ、ないんですか?」

オイラと岡田っちは顔を見合わせてから吹き出して笑った。
天狗と龍が兄弟なわけはない。

「ちがうよ。オイラは山にすんでる。岡田っちは熊野から来たきゃくじんだ」

「あれ、そうなんで?」

「どっちが兄様に見える?」

岡田っちが訊くと、娘は微笑んだまましばしオイラ達を眺める。

「そうですねぇ……あなた様の方が兄様かと……」

岡田っちを見て言ったから、オイラはちょっと納得が行かなくて。

「なんで? オイラの方が子供に見えるのか?」

「うんうん、オレが先輩だろう」

「なんでだよ! 空ではオイラの方が大きいぞ」

「オレはもう一人でお使い出来るもん。だからオレが先輩だよ」

「えええ~~」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ