龍と鳳
第14章 龍の涙が降らす雨
オイラ達、二形の龍は、マイペースでおっとりしてるのが特徴で、物事をあまり深く考えない生き物だ。
でも、しょーちゃんみたいに長生きして修行に励んでいると、やがて感情が豊かになって来る。
しょーちゃんは時々、オイラには解らない理由で考え込むことがあってさ。
そういう時は、心の中を隠して顔だけ作って笑うんだ。
だからオイラ、寝所に入った後も気になってて。
「智君、元気ないね。つかれたの?」
岡田っちに言われて、思ったまんまを答えた。
「うん……今日会った人の子のことなんだけど……多分しょーちゃん、なんか怒ってると思う……」
「えっ、なんで怒るの?」
「わかんない……岡田っちはなんでだと思う?」
「え~、オレに訊くの?
うーん……あの娘と話したことは叱られなかったよね。
ご神水を人の子にやったのがダメだったのかな?
でも、あれはオレが持ってたものだから、それで智君が怒られたりはしないよ」
「あの水って病もなおる?」
最初に見た時に死にそうだった娘は、熊野のご神水を飲んだ後は元気を取り戻したように見えた。
「病によるねぇ。ご神水は気をおぎなうんだ。
だから今回、長旅でつかれないように昌行坊が持たせてくれたの。
人の子にも効くけど、直接カラダをなおすものではないし……ご神水だけじゃ難しいんじゃないかなぁ」
「そっか……」
そんなら、あの娘は長生きしないのかもしれない。
山にいる獣と同じで、病が治らなければやがてイノチが尽きる。
虫も、鳥も、木々や花でさえ病にかかることがある。
そうやって寿命を前に死んでいくことがあるのを、オイラも何度も見たから知っていた。
なんだけど……別れた時にオイラ達に向かって手を合わせていた娘の顔が思い出されて……。
「智君?」
「…………」
オイラはお山を離れたこともなかったし、この時まで人の子と喋ったこともなかった。
お社に願掛けに来る人間のことしか知らなくてさ。
神様に向かって必死に手を合わせる姿を数えきれない程見て来たけど、わかってなかったんだ。
その人の子が、どんな想いで神様を頼り、縋ってるのか。
里宮もあるのに、どうして山頂まで登って来るのか。
必死に念じるから心の声は聴きとれる。でも実感が全くないから、そういうもんなんだな位に思ってて。
『あの娘の病、なおればいいのに』
声に出さない呟きが漏れた。
でも、しょーちゃんみたいに長生きして修行に励んでいると、やがて感情が豊かになって来る。
しょーちゃんは時々、オイラには解らない理由で考え込むことがあってさ。
そういう時は、心の中を隠して顔だけ作って笑うんだ。
だからオイラ、寝所に入った後も気になってて。
「智君、元気ないね。つかれたの?」
岡田っちに言われて、思ったまんまを答えた。
「うん……今日会った人の子のことなんだけど……多分しょーちゃん、なんか怒ってると思う……」
「えっ、なんで怒るの?」
「わかんない……岡田っちはなんでだと思う?」
「え~、オレに訊くの?
うーん……あの娘と話したことは叱られなかったよね。
ご神水を人の子にやったのがダメだったのかな?
でも、あれはオレが持ってたものだから、それで智君が怒られたりはしないよ」
「あの水って病もなおる?」
最初に見た時に死にそうだった娘は、熊野のご神水を飲んだ後は元気を取り戻したように見えた。
「病によるねぇ。ご神水は気をおぎなうんだ。
だから今回、長旅でつかれないように昌行坊が持たせてくれたの。
人の子にも効くけど、直接カラダをなおすものではないし……ご神水だけじゃ難しいんじゃないかなぁ」
「そっか……」
そんなら、あの娘は長生きしないのかもしれない。
山にいる獣と同じで、病が治らなければやがてイノチが尽きる。
虫も、鳥も、木々や花でさえ病にかかることがある。
そうやって寿命を前に死んでいくことがあるのを、オイラも何度も見たから知っていた。
なんだけど……別れた時にオイラ達に向かって手を合わせていた娘の顔が思い出されて……。
「智君?」
「…………」
オイラはお山を離れたこともなかったし、この時まで人の子と喋ったこともなかった。
お社に願掛けに来る人間のことしか知らなくてさ。
神様に向かって必死に手を合わせる姿を数えきれない程見て来たけど、わかってなかったんだ。
その人の子が、どんな想いで神様を頼り、縋ってるのか。
里宮もあるのに、どうして山頂まで登って来るのか。
必死に念じるから心の声は聴きとれる。でも実感が全くないから、そういうもんなんだな位に思ってて。
『あの娘の病、なおればいいのに』
声に出さない呟きが漏れた。