テキストサイズ

龍と鳳

第14章 龍の涙が降らす雨

「智、岡田君も。まだ起きてるの?」

不意に廊下から声がかかった。しょーちゃんだ。

「話が弾むのは解るが、岡田君は長旅でお疲れでしょう?
そろそろ寝なさい」

「はーい」

「わかったぁ」

「おやすみ」

「「おやすみなさーい」」

二人揃って返事をして目を閉じたんだけど。
オイラは昼間の娘っ子のことが気になって、なかなか眠れず寝返りばかり打っていた。
隣りにいる岡田っちは目を閉じて静かになったから、寝てしまったのかもしれない。

オイラはそーっと布団から這い出ると、客間から普段しょーちゃんと一緒に寝ている部屋へ向かう。
あの娘のことでしょーちゃんと話そうと思ってさ。



ペタペタ響く足音に気をつけて廊下を進み、角を曲がろうとした時、御簾がめくれてしょーちゃんが部屋から出てきた。
びっくりしたオイラは思わず立ちすくむ。
しょーちゃんはオイラが見たことがない黒い着物姿で、張り詰めた顔をしていた。

オイラ達のような二形の、神霊の部分を説明するのはちょっと難しい。
分かりにくいとは思うんだけど……何ていうか、常に日輪と一体というか。
オイラ達は大前提として日輪の保護があって存在しているんだ。

最初から人の子として生まれたヤツはまた違うみたいだけど、オイラみたいに元が自然霊として発生したタイプは陽の光を取り込んでチカラにしてるのね。
だから日が沈んでしまうと龍としての本領を発揮するのが難しくなる。
それで太陽が沈んでいる間は存在が安定するように人形を取るんだ。

オイラは知らなかったけれど、この時しょーちゃんが着ていたのは夜の闇と穢れから身を護るための呪い(マジナイ)がかかった装束だった。

「間に合うかどうか……」

痛みを堪えるみたいに呟いたしょーちゃんは、縁側から外へ出ると一旦光の塊になってから本性を顕わにし夜空に昇って行った。
オイラは理由がわからないながらも、夜にしょーちゃんが龍になったことにビックリして。
何か大事が起きているんだと思った。

「た、たいへんだ……オイラも……オイラも行かなくちゃ!」

慌てて裸足のまま外に出た腕を誰かが掴んだ。

「岡田っち! オイラちょっと行ってくるから、おまえは寝ててっ」

「智くんっ、オレも一緒に行く!」

「えっ!」

「緋龍さまはたぶん、昼間会ったあの娘のところに行ったんでしょ? オレも行くっ」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ