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龍と鳳

第3章 ぽよぽよの大冒険

オイラは、空を泳ぐのが何よりも好きだ。
本性を解放してお山の上から大空へと飛び上がり、下界を遥か遠くに見下ろしながら、ただひたすらに上空を目指す。

汚れの全くない高度まで上がると、そこは赦しに満ちたどこまでも清浄な世界。
際限なく与えられる日の光、命の源を十分に補給すると、エネルギー体である自分が一回り大きくなったように感じる。

鼻の先から、自分でもどれほど長いかもう分からない背を経て、尾の端っこまで。
鱗の隙間に詰まった下界の汚れが全て日の光で洗われるように、体をくねらせてねじのように回転させる。

我ら天翔ける者は、こうしていつも日輪(にちりん)と共に在る。

あまねく降り注ぐ恩恵にひれ伏すように感謝を捧げ、全ては一つであることを魂に刻み直してから。
今度は体を横にして、ゆったりと波打つように、ゆるゆると下降していく。

自分に与えられた場所、神様がいらっしゃるお山の周辺を、大きく旋回しながら見回りするのが毎日のオイラのお勤め。

高く、低く。
踊りながら、くねりながら。
オイラ達、龍にとっては、自由であり続ける事こそが生きる意義。

お山にお仕えしていると神様のお手伝いはどうしてもしなきゃならないけど、こうして人形(ひとがた)を解いて本性をあらわし空を泳いでいる時が、やっぱり一番自分らしいと感じる。
何のこだわりもなく、ただただ、オイラ自身でいられるんだ。

この日もいつも通り、遥か雲の上で歓喜の舞に夢中になっていたら、珍しくお山の神様から早めに戻るように、と指示があった。
どうやら磐座(いわくら)に来客があったらしい。

来客?
いや珍客じゃねぇのか??

本性のままに磐座へ向い、そこにちんまりとおわすご存在を、オイラはしげしげと眺めた。

オイラたち龍は空中で静止することは出来ないから、同じ高さに浮かんでいるように見えても、実際にはうねうねと動いている。
磐座をぐるりと回るようにとぐろを巻いてたら、神様にたしなめられた。

『智、珍客などと思うてはならぬ
星の神々から送られた御使いだ
中学生からカツアゲをするチンピラでもあるまいに
からむみたいな態度はやめなさい
怯えて緊張しておる』

神様のお考えがオイラに届く。

ふーん。

御使いらしい茶色のかたまりは、オイラが怖いのか、ぽよぽよした産毛を震わせながら、こっちと目を合わせないようにしていた。


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