メランコリック・ウォール
第23章 愛でて撫でる
「簡単にアキのこと抱きたくない。…もう少し我慢させて」
「…ん…」
「俺、オサムさんとは違うから。」
夫への皮肉に不快さはゼロで、それどころか少し笑えた。
「でも…私ばっかり…気持ちよくって、なんか…」
「いいの。…あ~、アキいやらしかったなぁ。もっと食べたい。けど、ゆっくり…な。」
「ぅん…」
秘部が残念がっているのが分かる。
けれど、関係を大切に、慎重に寄り添ってくれる彼もまた愛おしかった。
「ちゃんと2人でデートしたいじゃん。今日は…まぁ、仕事だし」
それもそうだと思った。
また少しお酒を飲み、星を眺める。
テーブルに置かれたキョウちゃんのキーリングが、きらりと光った。
…
しばらくして、そろそろ部屋に戻るという頃
「俺も飲みもん買いに行くわ」
と、キョウちゃんも一緒に部屋を出た。
エレベーター前の自販機で水を3本買い、2本を私に手渡してくれた。
「ありがとう。いつも…」
「ん。」
そっと私の頬に触れ、優しく唇を重ねた。
「キョウちゃん、…」
「どうした?」
「ううん…」
こんなにも、誰かと一緒に居たいと想ったことがあっただろうか。
これだけ時間を共にしても、まだ足りない…こんな気持ちは初めてだと思う。
「時間、気にしないでさ…ゆっくり過ごそうな。現場も終わったし」
「…うんっ」
嬉しくなってはにかんだ時、エレベーターの扉がひらいた。
とっさに目をやると…
「…あ。」
ーーーそこには…桜子ちゃんとオサムの姿があった。
二次会が終わったのか、抜け出してきたのか。
深く考えるよりも先に、気まずい空気が充満する。
私もオサムも、相手に対して何も言えない。
言ってしまえば、墓穴を掘ることにもなる。
…
平気そうに沈黙を破ったのは桜子ちゃんだった。
「やっぱり~、2人いっしょだったんですね?予想的中~~」
私とキョウちゃんが一緒にいることが当然のようなその口ぶりに、オサムは私を睨みつける。