メランコリック・ウォール
第24章 男と女
桜子ちゃんはさらに追い打ちをかけるように大きな声で言った。
「私、見ちゃったんですよぅ。夜遅くに、事務所のすぐそばに森山さんの車が停まってたの。」
したり顔を見せつけられ、私はまさか彼女に見られていたことに内心驚いた。
しかし、動揺を見せるのは何だか悔しい。
「そうなのか?」
オサムがキョウちゃんを見た…ー。
「…はい。」
彼はゆっくりと、しかし確実に声を発した。
「こいつと会ってたのか。」
「はい。」
キョウちゃんからは動揺も緊張も感じられなかった。
むしろ、オサムよりも堂々として見える。
「森山さんね、アキさんみたいな人が好みなんですって。なにか秘密があったりして~?ね、オサムさん、そう思わなぁい?」
彼女はオサムの腕をつかみ、甘ったるい声で言う。
ーーオサムの、はだけた襟元が不潔に見える。
私への当てつけだとしても、どうしてこんな男にすり寄ることが出来るのか…と、思わずにはいられない。
「今日だって一緒に来てたでしょう?あやし~い。ね?オサムさん」
なにかを考え込むように黙るオサムは、そう見えてなにも考えていないのだろうとも思える。
「あなたたちに言われる筋合いはない。」
口から出た言葉は、自分が思った以上に冷たいものだった。
「ああ?」
オサムは眉間にシワを寄せ、また私をギロリと見た。
「あなたたちが想像しているような…あなたたちがしていたような事は、していません。」
真っ直ぐ目を見て言い、オサムも私も目をそらさなかった。
小さな小さな意地の張り合い。
やがてオサムがチッと舌打ちすると、キョウちゃんが口を開く。
「アキさんと、体の関係はありません。」
気に入らなそうな顔をした桜子ちゃんが、「ほんとかなぁ~」とまた悪態をつく。
それを聞き、私はもうすぐ我慢の限界がやってきてしまうと感じた。
爆発する前に、なにか言葉を紡がなくては。