メランコリック・ウォール
第27章 悦楽
しばらくの間キョウちゃんの腕につつまれ、昂ぶっていたものも落ち着いてきた。
ああ、なんて甘美な時間だったのだろう…。
「なに思ってる?」
彼がポツリとつぶやく。
「ん…。今までより、もっと恋しくなってく。怖い…」
「俺も。」
「あと…喉が渇いた。えへへ」
「ははっ!そうだな。アキ、いっぱい濡れてたから。そりゃ、渇くわ。」
「んもぅ!やめて…っ!」
それからキョウちゃんはボクサーパンツを履き、私はタオルケットを身体に巻いてリビングへ出た。
ペットボトルのお茶をゴクゴクと飲み、彼にも手渡す。
ほんの少し汗ばんだ胸板が、ついさっき愛し合った匂いをまとっている。
視線に気付いたキョウちゃんは、また私を抱き寄せた。
「…今から、俺が勝手に思ってることを言います。」
「…?……はい。」
「周りにどんなに迷惑かけても、それでもアキといたい。それが罪なら、俺ができる事すべてして…償う。」
ぎゅっと力がこもる腕は、私を離さない。
彼の言葉と、心地よい息苦しさに酔う。
「私も…キョウちゃんと居たい。ずっと……」
子供同士の恋愛のように安っぽいセリフ。
それでも、それが私の本音だった。
彼の胸に包まれて眠りに落ちていく悦びはこの上ない至福の時間。
時折、肌をさするキョウちゃんの指先。
「アキが何より大事。おやすみ…。」
という、愛のささやき。
現実に戻りたくない、夢から醒めないように…そう祈り、意識は遠のいていった。
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翌日、目を覚ますと9時だった。
こんなに長く眠ってしまうなんて。
キョウちゃんはボクサーパンツだけを身に着けてすやすやと眠っている。
ゴミ箱に捨てられた昨夜の名残りが、私たちは本当に繋がったんだと知らしめる。
ゆっくりと上半身を起こす。
外は雨が降っているようだ…ーー
「…アキ。」
うしろから、彼が私を呼ぶ。
振り返ると、シーツに沈むキョウちゃんが微笑んだ。
「おはよ。」
これが日常なら、どんなにいいだろう。
それでも今日は家に帰らなくてはいけない。