メランコリック・ウォール
第40章 親方への告白
義父とオサムにぱぱっと簡単な夕食を用意し、私は用事で事務所に行くフリをしながら家を出た。
駆け足でお店に到着し、息も荒いままお店の戸をあけた。
奥の座敷で親方と向き合って座るキョウちゃんが見えた。
「お疲れさまです」
パンプスを脱ぎ、キョウちゃんに促されて隣に座る。
「アキちゃん、ビールでいいな?」
親方とお酒を飲む機会は普段からほとんどない。
どこか上機嫌にも見える親方は生ビールを3つ注文した。
力強い乾杯をすると、親方のほうからすぐに切り出した。
「それで。今日はなんだ?あらたまってよう」
キョウちゃんはジョッキを置き、姿勢を正す。
「親方。ほかの人より先に話しておきたくて。」
「まさか、アキちゃんとデキてんのか?あっはっは!」
そんなわけがないと思っているのだろう、親方はいつもの調子で大笑いした。
いたって真面目な表情を変えない私たちに気付くと、親方の顔も少し険しくなった。
「相談があるって言ったな。なんだ?」
「はい。…俺は、アキさんと生きていきたいと思ってます。」
彼はいきなり直球な言葉を吐き、私にちらりと目をやった。
「…真面目に言ってんのかぁ?!悪い冗談かぁ?」
「いえ…本気です。」
親方はビールをグビグビと飲み、口の泡を拭う。
はぁー…と大きな息を吐き出し、意味もなくおしぼりを畳んだ。
そして私を見据え、言う。
「アキちゃんはどう思ってんだ?」
「私…ーー。私も、森山さんのことが大切です。仕事の引き継ぎが出来たら主人とは別れたいと思っています…。」
「オサムは分かってんのか」
「いえ、まだ…。これからです。」
お待たせしました!と焼き鳥がたくさん運ばれてきた。
まぁ食えや、という親方にしたがって一口食べた。
「オサムとアキちゃんの仲がな、良くないこたぁ知ってる。そんなこたぁ、皆知ってる。だけどまさかお前たちがそんな関係だとは思わなんだ。」