メランコリック・ウォール
第40章 親方への告白
…
ほとんど眠れないまま、朝を迎えてしまった。
これまでのように朝食を用意し、起きてきた義父と挨拶を交わす。
「どうだった、九州は?」
「とっても素敵なところでした。」
「そうか。」
「お義父さんたちも、ゆっくり休めました?」
「俺は寝正月よ。あいつは、遊んでばっかでどうしようもないなぁ」
すると後ろから突然声がした。
「家にメシがねぇんだから、出なきゃ仕方ねぇだろ」
言いながら腰をおろし、朝食を取り始めるオサム。
私は目を背けるようにして自分の支度に取り掛かった。
…
久しぶりに事務所へ出ると、そこにはこれまでと何ら変わらない小さなオフィス。
今まで疑問にも持たなかったことが、次々と脳裏をよぎっていく。
私はここにいるべきではないんだ。
20分ほどでキョウちゃんが出勤してきた。
お茶を出し、いつものように目を合わせ、うなずき合う。
やがて男たちが事務所を出ると、入れ替わりにゆりちゃんが出社した。
「アキさん、おはようございます!」
「おはよう。」
「なんだか私のほうが緊張してきちゃったり…あはは」
「本当にごめんね、なんだか迷惑かけてばかり」
「いいえ。自分の生きたいように生きましょう!私もそうしてますから♪ふふ」
言葉の矢が私に心地よく刺さった。
昼頃、キョウちゃんからメールが入る。
[親方に時間もらえそう。仕事終わったら、あの近所の店で]
花見のあと、ゆりちゃんと3人で行った店だ。
…
夕方、滞りなく作業員たちが戻ってきた。
まだみんな正月ボケが抜けないのか、疲れた疲れたといった様子でさっさと帰宅していく。
オサムもさっさと自室へ行った。
親方もキョウちゃんも事務所を出ていくと、最後に残ったゆりちゃんが私を見た。
「アキさん!ファイトです。気合いですよ!」
「う、うん…!ありがとう。また報告するね。」