メランコリック・ウォール
第40章 親方への告白
「はい。アキさんが、オサムさんと別れて俺といたいって思ってくれている限り…俺の意思は変わりません。」
ここに来て、なんと親方は微笑んでみせた。
「…?」
驚いていると親方は追加のビールを注文し、また私たちを見た。
「お前たちァ、まだ若い。人生いろいろあらぁね。こんなジジィだってな、昔ァいろいろあったんだ。好いて好かれて、修羅場もあらぁ。」
ほら、飲め、食え、と親方は促す。
言われたとおりキョウちゃんはビールを飲み、焼き鳥を頬張った。
それから私たちは、オサムとの仲裁役として同席してもらえるよう頼んだ。
初め、そんなことは俺がするべきじゃないと断られた。
しかし結局、可愛い弟子でもあるキョウちゃんのお願いを断れないといった様子で承諾してくれた。
…
「結局、桜子ちゃんのことは言わずに済んだね。」
「ああ。とりあえず…な。あとはアキ、オサムさんに時間とれるよう言えるか?嫌だったら俺が伝えるよ」
「ううん。…大丈夫、自分で言う。ふぅ…ーー。なんだか今夜は眠れそうかも。」
「昨日眠れなかったんだろ?今日はちゃんと寝ろよ」
「うん…」
自販機の脇で、ぎゅっと強く手を握りあった。
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翌朝、私はいつオサムに切り出そうか悶々としていた。
朝食が出来上がった頃に義父が起きてくる。
早いうちに言ってしまいたいと、私はオサムの部屋へ向かった。
軽く2回ノックすると、中から「あぁ」とぶっきらぼうな返事が聞こえる。
そっと戸をあけると、今起きたばかりのオサムが布団から這い出ながら私を見た。
「なんだよ」
「…今日、仕事が終わったら時間作ってほしいの。」
「なんで。」
「話があるから。」
「何の話だよ」
「いま話すようなことじゃない。…親方も来るから、よろしく」
それだけ言うと、私は1階へおりた。
きっとオサムは混乱しているだろう。
桜子ちゃんとの関係がバレたと思っているかも知れない。