メランコリック・ウォール
第45章 衝動
「これを…。」
役所でもらった封筒を差し出すと、先に義父が感づいたようで目を見開いて私に視線をやった。
「アキちゃん…」
「…。」
黙ってうなずき、オサムの反応を待った。
「なんだこれ?」
がさつに封筒の中身を取り出した夫は、一瞬の間のあと、すぐに舌打ちをした。
「何考えてんだお前。本気で言ってんのか?」
「もちろん本気です。」
「別れてどうするつもりだよ。あいつのとこに転がり込むのか?良い年して何言ってんだお前。」
小馬鹿にしたように言い、また箸を持った。
「別れたあとのことは、あなたには関係ありません。…ここを出ていきます。」
「ああぁ……」
言ってすぐ、義父が嘆いた。
「そりゃあな、アキちゃんがそう言うのも無理ないよ…でもな、なんとか考え直してくれんだろうか?」
見るからに焦燥している義父は、正座をして私の方へ向き直した。
「いえ…私の考えは変わりません。ごめんなさい…これまでお義父さんには良くしてもらいました。でも、この人と今後も夫婦でありつづけることは出来ない…。」
それを聞いて、オサムは怒った口調で言った。
「それはよォ、俺が浮気したからか?ちげぇだろう?」
「…は?」
「お前、森山のとこに行きたいだけだろ?自分の問題じゃねぇか。俺が浮気してラッキーくらいに思ってんだろう。」
義父がオロオロして私とオサムを交互に見ている。
「…確かに、私は彼と関係を持ちました。人の妻として、あってはならない事をした。」
「そうだ。」
「…そしてあなたも、浮気していた。多分私たちの関係はもう崩壊していたからだと思います。」
「…。」
「…。」
「浮気をしたのは事実です。裁判になっても構いません。…けど、先に浮気をしたのは、家にまで連れ込んだのは…あなたです。」
「どっちが先かなんて話はしてねぇだろ!」
「…それでも判決で責任が問われたなら、きちんと償います。もうあなたに愛も情も…ありません。この家にいるのが苦痛なんです。」
「…チッ。」