メランコリック・ウォール
第46章 地植え
キョウちゃんの実家に着くと、今回はお父様とマサエさんが急いで出てきて迎えてくれた。
「まあ、とにかく、はよ入れ」
ぶっきらぼうな言葉の裏側には、よく来たな、と歓迎しているお父様が垣間見える。
「アキちゃん!よう来たねぇ!元気してた?」
マサエさんが声を張る。
ひとまず居間に入り、マサエさんがいれてくれたお茶を舐める。
「しばらくいさせてほしいんだ」
挨拶もそこそこに、キョウちゃんが単刀直入に言った。
「なあに。ここァ、お前の家だ。おかしなこと言うな」
お父様は笑いながらズズズッとお茶をすすった。
「あんだけ荷物が届きゃ、だいたいの事情は分かる。」
送られてきた荷物は奥の部屋にしまってあるからと、マサエさんが明るく言った。
「ああ…わるい。世話んなる」
「いや。」
言葉少なだが、この親子はハタから見るよりもずっと意思疎通が出来ているのだろうと分かる。
「本当にご迷惑をおかけしてすみません。お世話になります…――」
私は姿勢を正し、深々と土下座をした。
「お前さん、それはいかん。頭を上げてくれ。」
「そうよォ、アキちゃん!私たち、謝られることなんてなにも無いのよぉ?この人ね、アキちゃんが来るからってバスタオルとかね、入浴剤とかいっぱい買い込んで待ってたんだから!ふふふ!」
私が驚いてお父様を見ると、恥ずかしそうにマサエさんを小突く仕草をした。
「ありがとうございます…!あ、あの…。今、夫が離婚届を書くのを待っています…」
しっかり伝えておくべきだと思った。
キョウちゃんは真っ直ぐにお父様を見つめている。
「…。」
お父様は無言で一度、頷いた。
「ところで、玄関に置いたあの鉢は…クチナシだな?」
「あ、はい…そうです。友人から誕生日祝いにもらって、大事に育てていて…」
「アキが大切にしてたから、持っていこうって俺が言ったんだ。」
キョウちゃんが言った。