メランコリック・ウォール
第48章 ウォールシイナ
「俺は長いこと、見て見ぬふりをしてきた。アキちゃんは一番よく分かってるよなァ…。こうなってしまってから、自分に悔いている。情けないが…」
「お義父さんには責任を感じてほしくありません。…たとえお義父さんの対応が違ったとしても、私とあの人は…。」
「んんぅ……。」
「謝らなければならないのは私の方です。いいお嫁さんになれなかった……一度は約束して椎名家に嫁いだのに、無責任なことをして…。本当に、申し訳なく思っています。」
本心だった。
お義父さんにも、亡くなったお義母さんにも、かわいがってもらったと思う。
嫁姑のいさかいなど一切なく、ただただ、私とオサムの関係だけが腐っていった10年間だった…――。
「謝らないでくれ。俺はもう…踏ん切りがついてる。これから、あいつと2人…なんとかやっていかにゃァと思ってる。」
「…はい。」
「どうしようもない奴だけどな、やっぱり俺にはせがれなんだよ。だから今までも、あいつのやり方を尊重してきたつもりだ。」
私は頷いた。
「しかし…アキちゃんの妊娠が分かった今は、もう違う。なあなあでは、いけん。」
義父の気持ちを考えてみた。
10数年前から、息子夫婦を見守ってきた。
仲違いをしながらもなんとかかんとかここまで来た。
しかし息子は、親友でもあり最大の仲間である親方の孫に手を出した。
20歳ちかく離れている女の子と関係を持ったというだけで深刻なのに、それが親方の孫だったのだ。
そして息子の嫁は、よそに男を作って出ていった。
しかもその相手は、自分の事務所に毎日出入りする男だった…。
ここへ来て、一番可哀想なのは義父なのではとも思えてきた。
若かりし頃に汗水たらしておこしたウォールシイナで、妻と仲睦まじく生きてきただろう。
やがてオサムが生まれ、きっと幸せな毎日だったはずだ。
しかし若くして妻は亡くなり、その後…こんな事になるなんて。
義父からしてみれば悲劇でしかない。
その悲劇を作り出したのは、まぎれもなく私とオサムだと思う。