メランコリック・ウォール
第48章 ウォールシイナ
「ほんとに1人で行くのか?」
「うん。大丈夫。1人で行きたいの…。」
「ちゃんと…戻ってこいよ。」
私はキョウちゃんに送ってもらい、空港にいた。
「なんかあったらすぐ連絡な。約束。」
ゲートまで見送りに来てくれた彼に手を振り、飛行機へ乗り込んだ。
妊娠が判明したその夜、私は「もう一度、話をしにウォールシイナへ行きたい」と彼へ相談した。
少し暗い雰囲気ではあったが、考えた末にキョウちゃんは了承してくれた。
もっとも、妊娠の事実を知っていたら了承はしてもらえなかっただろうとも思う。
空港へは義父が迎えに来てくれた。
電車やタクシーを使うと言ったが、めずらしく、どうしても迎えに行くのだと折れなかった。
「アキちゃん!」
手招きをする義父に、少しの微笑みを投げた。
義父もまた、しわを作って優しく笑った。
すすんで私の荷物を持ち、助手席のドアまであけてくれる。
仮にも10年以上いっしょに暮らした息子の嫁が4ヶ月ぶりに帰ってきたからなのか、妊娠の事実を知ったからなのかは…分からない。
今日は土曜日で、家にはオサムがいるはずだと言う。
車での道のりは1時間と少しで、その時間を目一杯つかって義父と話をした。
2人きりでこんなに話したのは初めてだった。
4ヶ月離れていたからこそ、冷静に腹をわって話せることも沢山あった。
「アキちゃんは…。」
「はい。」
「オサムが浮気していたから、ヤケになったのかなと最初は思っていたんだ。」
「…。」
「でもね。大きな間違いだった…。そもそもの話、俺が甘やかしすぎて今のオサムがいる。あいつが悪びれもせず、桜子ちゃんと関係を持ったのは…明白だと、今は思っている。」
「お義父さん…。」
「前にアキちゃんが言ったようにね、どっちが先かなんて話じゃないんだ。オサムとアキちゃんは、こうなるずっとずうっと前から…――」
「はい…。」