メランコリック・ウォール
第49章 トマト
部屋に戻ってシャワーを済ませ、寝る前にお腹をさすりながらキョウちゃんへメールを打った。
まさかここに小さな命が宿っているとは信じがたくもあるが、きっとそれが真実なんだ。
あまり早く診察に行っても赤ちゃんが確認できない事があるとネット情報で目にし、12月に入ってからだったら確実かなぁ…なんて考えていると、キョウちゃんから返信が届いた。
[なんか俺、めちゃくちゃ寂しいっぽい。今日はシャチ抱いて寝る]
自分が感じる「寂しい」という感情に戸惑うのは、私だけじゃないのかもしれない…。思わずクスッと笑った。
キョウちゃんとのデートで買ってもらったシャチのぬいぐるみは、いつも私たちの寝床のそばに置かれているのだ。
おやすみ、とやり取りすると、その頃の…ほんの半年ほど前までの私たちに戻ったみたいだった。
翌朝、私はしっかりバイキングでトマトを食べまくってから飛行機へと搭乗した。
空港まで迎えに来てくれたキョウちゃんが、ゲートの近くでキョロキョロしているのが見える。
「キョウちゃん」
遠くから手を振るとこちらに気づき、駆け寄ってきて荷物を持ってくれる。
「おかえり。」
「ふふっ。ただいま…。」
彼は恥ずかしげもなく私を見つめ、頬に触れた。
車の中で、私はいつキョウちゃんに切り出そうかと考えていた。
そして、もしその反応が予想とは反していたとしても…。心の準備はしてあるつもりだ。
…結局、言い出せないまま森山家の駐車場に到着してしまった。
庭先ではお父様が「おお、帰ったか」と手をあげた。
玄関を入ると、台所ではマサエさんが昼食を作っている最中だった。
「アキちゃん、おかえり~!お昼ね、久しぶりにチキン南蛮よう~♪」
チキンの乗った1人前のお皿が、当たり前のように4つ並んでいる。
「あ…っ。わぁ、美味しそう」
ふいに充血した涙腺を隠そうと、明るく返事をした。