メランコリック・ウォール
第49章 トマト
「もしもしアキ?大丈夫か?」
今すぐにでも飛行機へ飛び乗って駆けつけてくれそうな彼の言葉に、自然と笑みがこぼれた。
「うん、ごめんね。連絡できなくて…」
「今どこ?」
「ホテルに着いたところ。」
「そっか…。話、できた?」
「ん…。判は押してもらえなかった…だけど、お義父さんもこれから言って聞かせてくれるって…」
「…分かった。飯は?ちゃんと食った?」
そういえば、昼食も食べていないのだということに気が付いた。
「ううん。ホテルの1階にレストランがあるから、これから行こうかなって。お腹すいたぁ…」
「ふふ。たくさん食えよ。」
「でも…」
「ん?」
「やっぱりキョウちゃんがいないのは寂しい…なって。1人で寝るの、いつぶりかな」
冗談交じりに言ったつもりだったが、キョウちゃんは真面目なトーンで答えた。
「やっぱり、俺も行こうか。」
明日の朝には九州へ戻るのに、本気にしている彼が愛おしい。
「ふふっ。明日の朝には飛行機に乗るし、今日は我慢するよぉ」
「んー。そうか?」
「うんっ」
「…なぁ。俺…」
「うん?」
「俺は、だけど。俺はね、アキが離婚成立するまで時間かかっても…いつまでも待てる。だからあんまり思い悩まないでくれな。」
妊娠をまだ知らないキョウちゃんは、優しく私に言った。
「ん…。ありがとう。」
「今回だって、俺ほんとはアキをそっちに行かせたくなかった。けど…」
「いいの。あの人と結婚した責任…終わりまでしっかり、向き合わないといけないのは私だから…。」
夕食をとったらまたメールして、という彼との電話を終え、なんだか新鮮な気持ちになる。
この4ヶ月ずっと一緒にいたから、離れてみて改めてそれが幸せな日々なのだと実感した。
レストランはバイキング形式になっていて、五穀米とトマトを思い切り食べた。
最近トマトばかり食べたくなるのは、妊娠が原因なのだろうか。分からないことだらけだ。