メランコリック・ウォール
第50章 渦
診察室から出ると、シイナ様と書かれた紙コップを看護婦さんから手渡された。
トイレには小窓のようなものがついていて、尿をとったらそこに置いておくらしい。
言われた通りにしてから、また廊下のソファで待った。
初めてのことばかりで戸惑うが、世の中のお母さんたちは皆、これをやってきたんだ…。
しばらくして、また名前を呼ばれた。
先生は、「陽性反応は間違いなく出ています」と言った。
「は、…はいっ…!」
「隣の部屋で内診をしますね。ご主人は一緒かな?」
「あ、えっと…はい、来ています」
私はとっさにそう答えた。
「そう♪それじゃ呼んできてもらえるかな?」
先生は疑いもなくそう言うと、あとのことを看護婦さんに指示して出ていった。
キョウちゃんを呼びに行くと、彼もまた、いつもよりも背筋が伸び、緊張しているのが分かった。
「ご主人はここでお待ち下さい。準備ができたらお呼びしますね!」
…
内診台に座ると、ウイーーンと自動で動き、両方の太ももがパカンと開いた。
子宮検診での経験はあるが、今回は違う…妊娠したのだ。
カーテンの向こうで先生の声がした。
「それじゃあ、エコーいれていくよ~。力抜いてね。ふぅ~~~…ってね。」
気の抜けるようなその「ふぅ~」に、自然と力が抜けていった。
「そうそう、そんな感じ♪もうね、オナラ出ちゃうくらいリラックスして頂戴~」
どこかリズミカルに面白いことを言う先生だった。
膣に、冷たくて硬い、人工的な物質を感じる。
少し苦しいが、なんとか力を抜く努力をした。
「右側のモニター見える~?」
言われて右を向くと、こぢんまりしたモニターに黒くて丸いものが映っていた。
やがでキョウちゃんも呼ばれ、2人で先生からの説明を受けた。
「赤ちゃんいるよ~!この小さい、コレね。最終生理からすると、ちょ~っと小さいけどねぇ、心配ないからね~♪次の診察で、予定日決めよっかぁ」