メランコリック・ウォール
第52章 巡
「椎名オサム」
「緑川アキ」
という文字を見つめ、ここに来て初めて涙が溢れて止まらなかった。
ここまで至らなければ解決できなかった事なのだろうか。
オサムの浮気を見過ごしていたら。
キョウちゃんに身を委ねなかったら。
けれど結果として、全員が痛手を負ってしまった。
…――どれを取ってみても、行き着くところは…「自分の撒いた種」。
分かっていても、やるせないこの気持ちのやり場が見つからない。
…
それから何日もかけて、キョウちゃんと私は気持ちに折り合いをつけていった。
「俺たちはこれからも一緒なんだよ、アキ…。」
彼は、もう当たり前に決まりきっている事のようにそう言った。
連日連夜、私の心も体も包み込んだ。
―――…
年が明け、また新しい1年が始まった。
私たちは去年と同じように、海へ行った。
防潮堤から日の出を眺めていると、なぜだか義父の手紙を思い出した。
謝罪、謝罪…そして最後に、”許されるのなら、どこかで娘が元気に生きていると、思いながら過ごしたい”
…と書かれていた。
……
――1月吉日。
森山邸を囲む塀に、ピカピカの看板が取り付けられた。
【森山塗装】と書かれたそれは、午前中の日差しをヤンチャに跳ね返す。
この日ばかりはお父様も外へ出て、インスタントカメラで写真を撮った。
玄関先には山岸さんや他の友人たちから、開業祝いの花が届く。
マサエさんと私は、宴に備えてたくさんの惣菜をこしらえた。