おにぎり短編集
第2章 カレーライス
電話口の向こうで、彼が大きく息を吸ったのがわかった。
「……明日、逢いに行くよ」
「え?」
彼が突然に、何を言っているのか分からず、聞き返す。驚きのあまり、言葉が出なかった。彼の声が響くスマホの画面を、まじまじと見つめる。
「明日、仕事終わりにそっち行く。一泊して帰るけど、いい? どうせ、有給使えって言われてんだ」
「いや、良いけれど……」
「けど、なに?」
少し不機嫌そうな彼の声に、ふっと笑う。
こういう時の言葉を、わたしは知っている。
「いや……ありがとう」
「……会いたくなったから、会う。それだけだ」
会いたいと思ってくれたことが、素直に嬉しかった。
声だけでも分かる。照れたように言うと、彼は早速、翌日発つ準備を始めたようだった。
……彼の中にも、衝動のように、会いたいと思う瞬間があることに驚きながら、少しだけ付き合い始めた最初の頃を思い出す。
「待ってる。明日は直ぐに帰るね。……久しぶりに、カレーにしようか」
「うん、カレーがいい」
会えると実感すると、じわじわと心の奥底から喜びが湧き上がってくる。
……今日は、パックもしてしまおうか。
そう思って、お手入れセットからパックを取り出した。
お互いが、お互いのために、沈黙を過ごす。
そんな夜も悪くない。
明日の今頃は……そんなことを考えながら、彼に気づかれないように、そっと微笑んだ。
完
「……明日、逢いに行くよ」
「え?」
彼が突然に、何を言っているのか分からず、聞き返す。驚きのあまり、言葉が出なかった。彼の声が響くスマホの画面を、まじまじと見つめる。
「明日、仕事終わりにそっち行く。一泊して帰るけど、いい? どうせ、有給使えって言われてんだ」
「いや、良いけれど……」
「けど、なに?」
少し不機嫌そうな彼の声に、ふっと笑う。
こういう時の言葉を、わたしは知っている。
「いや……ありがとう」
「……会いたくなったから、会う。それだけだ」
会いたいと思ってくれたことが、素直に嬉しかった。
声だけでも分かる。照れたように言うと、彼は早速、翌日発つ準備を始めたようだった。
……彼の中にも、衝動のように、会いたいと思う瞬間があることに驚きながら、少しだけ付き合い始めた最初の頃を思い出す。
「待ってる。明日は直ぐに帰るね。……久しぶりに、カレーにしようか」
「うん、カレーがいい」
会えると実感すると、じわじわと心の奥底から喜びが湧き上がってくる。
……今日は、パックもしてしまおうか。
そう思って、お手入れセットからパックを取り出した。
お互いが、お互いのために、沈黙を過ごす。
そんな夜も悪くない。
明日の今頃は……そんなことを考えながら、彼に気づかれないように、そっと微笑んだ。
完