
戦場のマリオネット
第4章 愛慾と宿怨の夜会
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酷く取り乱した母を城で休ませて、私は離宮へ向かった。
話していることも半ば支離滅裂だった。母に、イリナの居場所だけは聞き出せたのが、不幸中の幸いだ。
イリナを連れ去った婦人達を告訴するだの、この件に乗った貴族は身分に関わらず手にかけるだの、彼女らしかぬまでに冷静さを失くした母は、付いてくると言って聞かなかった。しかし彼女が得た情報が事実なら、現場を見れば、卒倒では済まないかも知れない。
私は母を預けたメイド達と一緒になって彼女を諭して、その実、同情もしていた。もうしばらくの辛抱だとしか、かけてやれる言葉はなかった。
離宮のアーチをくぐるまでもなく、私はイリナを見つけた。
屋根の下、優雅な装飾の施された敷居口の柱近くに、彼女が倒れていたからだ。適当に着せられたドレスは乱れて、下着はなくなっている。腕や肩に、覚えのない傷が増えていた。
抱きかかえて顔を覗くと、強烈な異臭が彼女に染みついていた。
「イリナ」
体温はある。寝息もあった。
深い眠りに落ちた彼女の夢が安らかでないのは明白だ。
こんな至近距離で顔を見るのは日常的なことなのに、閉じた目蓋から広がる睫毛、小さな鼻先、つんとすました唇の形──…それらどれもが今初めて見たかのように、私は感動に近いものを覚えている。
あの廃屋で、初めて彼女の無傷に等しい裸体を見た時以上に、今は彼女が美しい。
