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戦場のマリオネット

第4章 愛慾と宿怨の夜会



「ラシュレ……」


 何があったか確かめるまでもない。

 母がイリナを連れて来たのは、貴族達の怨恨がここまでのものだったとは予想つかなったからだろう。彼女は、刑場でのイリナがどんな暴虐を受けていたかも知らない。

 しかし私は知っていた。イリナがはぐれたと聞いた時点で、チェコラス夫人を待たせてでも彼女を探すべきだったと悔いるくらいには。…………


「もう、いや……」


 イリナが私のブラウスをきつく掴んだ。赤子が手近な物を何が何でも離すまいと握り締めるのにも近い力が、私の胸元に皺を刻む。それとは逆に、声は、本当に彼女か疑うほど生気がなかった。


「もういや……」


 私は彼女の頬にキスして、頭を撫でる。

 騎士団の、それも王女付きの騎士のあやし方として正しいかはともかく、それ以前に彼女は人間だ。

 甘え方も知らないで、今日まで生きてきたのだとしても。


「疲れた」

「うん」

「身体の中、いっぱい、なの……色んなもの、入れられたの……」

「ごめん、イリナ」


 何で貴女が謝るの、と、呟く声はいつもの彼女だ。

 いつもの彼女の声なのに、私の腕は、抜け殻を抱いているようだ。


「死にたい?」

「…………」

「だったら、一緒に行こうか」

「…………」


 数人の貴族達が離宮を出てきた。私はイリナを隠すようにして顔を伏せる。朝食は何にしようかと話し合う声の主達は、私達を気に留める様子もなく横を通り過ぎていく。


「…………て」


 イリナのくぐもった声が、ブラウス越しに、私に吐息を伝えてきた。


「……私のこと、まだ助けてくれる気なら」

「…………」

「貴女のものに、して」

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