
戦場のマリオネット
第4章 愛慾と宿怨の夜会
私はイリナの顔を見る。
自分で自覚していた以上に、驚いていたのかも知れない。
イリナは私を数秒見つめ返すと、少し笑った。
「うん、分かった」
「……、そう」
痛めつけろと、ただ命じられだけだった。好意も敵意もなく、私は国に従って、イリナから騎士の神聖を奪った。感情など不要な作業をこなす間も淫らな気持ちは起きなかったのに、今は彼女に満たされている。
今なら彼女を打ちのめして、ゆすって、思いのままに出来るだろうに、その好機を私は逃そうとしている。
「有り難う、イリナ」
「何が」
「もう、良いから」
「ラシュレ……?」
「屈服も改宗も、したくないなら、良いから」
あまり強く抱き締めたら、壊れてしまう。そんなことを考えながら、私の腕には力がこもる。
「君がそうしなくて良いように、……しなくて、大丈夫だから」
イリナの目が何を訴えようとしているか、私には読み取れなかった。
ただ穏やかな眼差しを向けてくる、信頼とも取れる顔をして、何より私を拒絶しない彼女を、永遠の中に閉じ込めたい。
第4章 愛慾と宿怨の夜会──完──
