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戦場のマリオネット

第5章 真実と本音






 アレットがイリナに対する気持ちを訊いてきたのは、チェコラス公爵の城から帰った昨日、私が母の部屋を出てきた時のことだった。

 ロランといつまで一緒にいて、何を話していたか。

 アレットの顔色を見て、私はそれを確かめるのをやめた。心穏やかな、ショックも受けていない自分自身に、驚いていた。


「一筋縄じゃいかなかった。アレットも聞いていたように、痛ぶっても手懐けようとしても、未だ意地を張っててこの通り」

「そのような意味ではなくて」

「…………」

「イリナか私、お姉様がお好きなのはどっち?」


 はぐらかせることを許さない。そんな無言の意思を込めたアレットの目が、私を見上げる。


「お姉様が公爵様に尽くされるのは、私のためよね?イリナのためじゃ、ないわよね……」


 何度そうだと頷いても、アレットはいつも不安げに、私の本意を確かめたがる。

 私はそんな彼女を愛おしく思っていたし、抱き締めてキスをして、永遠に等しい愛を囁いていた。公爵への私の忠誠は、彼女がいなければいくらでも揺らいでいただろうことも否めない。


 だのに私は即答出来なかった。

 はっとして、無論アレットを一番好きだと返した時には、その言葉の効力は大分薄れていたと思う。

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