
戦場のマリオネット
第5章 真実と本音
二十一年前の敗因は、彼らが敵の急所を狙えなかったからだと聞く。チェコラスはイエスの教えを模範としている。それが彼らに憐憫の情を誘い、肝心なところで仇となり、元も子もなくなったのだという。
そのことをイリナに話すと、彼女は初耳だと目を大きくした。貴女はもっと情け深くなるべきだ、とも添えて。
チェコラスの街は、隣国との軋轢など嘘だったかのように穏やかだ。
私達は路上の商人や工芸作家の露店に立ち止まっては、彼らの出す品々を見た。イリナがそれらを珍しがって、彼らにあれこれ質問する。その姿は、ありふれた貴族の女に見える。この格好で一般市民には見えないのは、きっと彼女の物腰のせいだ。
「国境ひとつ越えると、こうも流行りが違うのね。リディ様のお買い物に同席していたことがあったから服飾には詳しいつもりでいたけれど、知らないことばかり」
「興味ないのかと思ってたくらい。と言っても、私も知識はあるつもりなのに、言葉と物が一致しないっていうか……」
「ラシュレの場合、親しい女の子達の幅が広すぎて覚えられないんじゃないの?」
「これからはイリナだけに入れ込むから、知識も得られなくなるけどね」
「全く信用出来ないわ」
私はイリナの片手をとって、組み繋ぐ。
口先は素っ気ないくせに、彼女はこの手を振りほどかない。
