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戦場のマリオネット

第5章 真実と本音



「私はこんな、舌で潰れそうなほどやわじゃないわ」

「そんなこと言って、して欲しかったんだろ。イリナの好色」

「っ……!もう良いわ、一生しないから!」

「一生しないで、我慢出来る?」

「……うぅぅ、もう!」


 最後の一口を嚥下して、私はパンナコッタより数倍甘いだろう唇を狙って、席を立つ。

 イリナのおとがいを持ち上げて、何故か涙目の彼女に微笑み、顔を近づけていく。


「っ、……」


 私達の唇は躊躇いなく、それでいて息苦しいような空気のとりまく中で、触れ合った。

 イリナを意識しなかった頃は、口づけくらい容易かった。彼女と初めて出かけた時、いかがわしい宿の部屋で、私はこのキスの甘さを知った。
 アレットより甘くなかったはずなのに、あの時とは違う。乾燥しがちな唇から、イリナの背負ってきたものを感じる。幻のように甘く柔らかい。


「ん、んぅ……」


 私は何度も角度を変えて、薄い皮膚に覆われたふっくらとした花びらを啄む。イリナの匂いが鼻腔に染み透ってくる。それ以上に彼女から私自身に似た匂いもするのは、同じものを口にしたあとだからだろう。


 キスを離すと、とろんとした目が私を見ていた。


「どう、かしら……」

「うん。イリナはいつまでもここにいるね。いくら舐めても消えないし」


 つんとすました唇を指になぞって、もう一度彼女にキスした私は、舌先でもそこに触れた。

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