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戦場のマリオネット

第5章 真実と本音



「イリナ」


 階下に降りて、私はリディ様から洗濯カゴを奪い取ると、入っていたものを竿に干していく作業を始めた。


「イリナ……やめて。こんなこと貴女にさせたら、私が叱られるの」

「リディ様は、このようなことをなさって良いご身分ではありません」

「…………」

「やめていただくよう、あの人達に言っておきます」

「それじゃあ、イリナの側にいられなくなる……」


 何故、私を見限らなかったのかと、もう言えなくなってしまった。リディ様が私を離れれば、彼女は王達のいる城へ送られてしまう。おそらくそこは、このオーキッドの屋敷以上に自由もない。


「イリナ」


 空っぽの洗濯カゴを抱えて屋敷へ戻る途中、リディが私に呼びかけた。


「昨日の貴女……私は、あんなこと言うべきではなかったと思うわ」

「何の話ですか」

「ラシュレのこと。貴女に隠し事をしていたのは、私も同じだもの」


 リディ様は特別だから、と、喉元まで出かけた言葉を飲み込んだ。

 私は彼女の騎士ではなかった。リディ様と私を繋ぐものは、もう何も残っていないのかも知れない。

 彼女がラシュレを庇うのは、コスモシザの王女として当然だ。

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