
戦場のマリオネット
第5章 真実と本音
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他の空き部屋は狭くて息が詰まるから、という理由を押し通し、私はラシュレのいた部屋を使うことにした。
オーキッド夫妻は、家具や調度品だけでも入れ替えないかと提案してきた。私はそれを辞退した。私好みに変えてしまえば、彼女の名残を求められなくなってしまう。…………
昼下がり、私は夫妻が呼びつけた商人達の相手をしていた。
数人の下働き達にドレスや装身具を運ばせてきた彼女らは、今年の流行りはこうなのだとか、これは今注目されているデザイナーが手がけたものなのだとか、自慢の品を一つ一つ説明してくる。
「イリナ。女の子は今が一番楽しい時なんだから、好きな物を選びなさいね。遠慮なんてしなくて良いのよ。お父様が、公爵様にいただいた報奨金は貴女のために使うと言って聞かれないんだから……」
まるで親友に接するように楽しげに、オーキッド夫人が私に肩を寄せる。
「大体、それだって貴女のお陰なんだもの。親のくせに、娘には一生頭の上がらない苦労をかけたわ。私達からのお礼だと思って、ねぇ、このドレス貴女に似合うわきっと。貴女は顔立ちがはっきりしていて、ドレスを選ぶのが楽しいわ」
手放しにはしゃぐオーキッド夫人に、私は今日までどれほどのドレスを着せられてきただろう。
初めて独房を出されたあの日の夜空色の一着も、彼女の手持ちではなかった。私がいつか戻ってくる時のために、彼女はまだ見ぬ娘に与えるドレスや装身具を、歳月をかけて買い集めていたらしい。それを聞いたのは、ニ、三日前だ。
早く解放してくれないだろうか。
辟易した私はリディ様に意見を求めて、彼女の指した品を選んだ。
