
戦場のマリオネット
第5章 真実と本音
商人達が帰ったあと、私は一人のメイドを呼び止めた。よくラシュレの側にいて、彼女に少女のような熱い目を向けていた一人だ。
「何でございましょう、イリナ様」
「外へ出たいの。まだこの格好だと危険だって言われているから、貴女の服、借りられないかしら」
「どこへお出かけです」
「どこだって良いでしょう」
「イリナ様は、まだお身体も本調子ではないと……。旦那様と奥様より、お一人にしないよう言いつけられておりますので」
「リディ様と一緒なら」
「使用人をそのようにお呼びになってはいけません、イリナ様」
「…………」
私にはコスモシザで二十一年を過ごし、女神トレムリエの教えに従ってきた今日までがある。
他者を踏み台にして幸福は成り立たない。
その教えが本当なら、私はここにいても幸せになれない。私が災いを被れば、リディ様にもそれが及ぶ。ラシュレを助けに行きたいと願うのは、だから私の信仰心によるものだ。彼女への好意からではない。
「……もう良い。私はこのまま出かけるから、馬車を用意して」
「ラシュレ様について気に病まれているなら、おやめ下さい。誰も救われません」
「貴女は一度でもお仕えした人に、何の未練も感じないの?」
「私どものような庶民は、生活のために働いているだけです。旦那様達に背き、もしクビを切られたら、なけなしの貯金を切り崩していくしかなくなりますので……」
