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戦場のマリオネット

第5章 真実と本音






 ギャフシャ夫人は役人達を下がらせて、私の手首の枷を外した。

 感覚として一週間、ほぼ直立していた身体は、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。酷い眠気が襲いかかる。


「水も与えられないで、よく持ち堪えたわね。いくら貴女でもここまで弱ってしまったのだったら、身動きくらいとらせても問題なかったでしょうに……」


 台に腰かけたギャフシャ夫人のブーツのつま先が、私のおとがいを持ち上げた。目も動かせなかった私は、初めて彼女を見上げる姿勢になった。


「美しい顔。私だって貴女がコスモシザの人間だなんて気がつかなかったわ。ただでさえ病的に貴族らしかったのに、無駄に痩せたわね」

「……何をしに、来たんですか」


 ギャフシャ夫人の薄くシミの入った顔に、妖艶な微笑みが浮かぶ。あの日イリナを預けた時の、色に飢えた獣の目つきだ。


「公爵夫人に感謝することね。コスモシザの正統な騎士の純潔は奪っておいた、破瓜をさせる必要はない……と、お達しがあったのよ。そうでなくちゃ、貴女なんて今頃あの男達の精液まみれになっていたわ」

「…………」

「でも私は、戦や政より、若くて哀れな女に興味がある。公爵夫人のご命令に背いたところで、証拠なんか残らない」


 ギャフシャ夫人は私を腕から引きずり上げると、ふくよかな胸に抱き寄せた。

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