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戦場のマリオネット

第5章 真実と本音



「ラシュレ?貴女、明日死刑が決まったわよ」

「…………」

「だから口封じなんてしなくても、私が貴女を最後に可愛がっても、誰も知らないで済むの」


 彼女の指が私の頬を撫でて、髪をとかす。

 靄のかかった視界が、彼女の顔でいっぱいになる。私はその唇を受け入れる。しっとりとした熱い感触。よく動く舌が唇をこじ開けてきて、歯列をなぞる。


「舌、お出し」


 抗う余力もない私は、ギャフシャ夫人のまさぐりに絡めとられる。イリナの味が上塗りされてしまわないよう、彼女への想いが否定されてしまわないよう、気を確かに持っているのに、ざらついた肉の生き物が私の口内を踊り、舌にじゃれつく。


「ふ、ん……んんっ……」


 ぴちゃぴちゃと立つ淫靡な音が、私からイリナとの時間を遠ざけていく。


 やっと終わる。解放される。

 死が宣告されてもまだ安らぎに身を委ねられないのは、罰だ。イリナを愛でた残滓さえ残しておけないのも。

 イリナの苦しみはこの程度ではなかった。彼女に課した痛みは耐える、そう腹を括っていたが、父と呼んだ男が私を評した通りだった。私ほどの所業は、神を知る人間には出来ない。

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