
戦場のマリオネット
第5章 真実と本音
* * * * * * *
「嘘……」
私はティーカップから指を離した。身体が震えて、何を割ってしまうか分からない。
今しがたオーキッド夫人が私に知らせてきたのは、いつか覚悟しなければいけなかったことだ。
違う。覚悟などしたことなかった。
チェコラスであれだけの功績を挙げたラシュレのこと、命は助かるかも知れないと、私はどこかで高を括っていた。
「明日の朝よ。イリナと同じ、国の都合で可哀相ではあるけれど、毒殺で済むのが幸いね。アイビー家の血筋でも、公爵夫人はあの子をお気に召していたそうだから……。じきに皆、イリナを恨んだのはお門違いだったと分かるわ」
「いつ……どこで……。公平な裁判をしなければ、死刑は禁じられているはずよ」
「イリナ。貴女は一時の感情で、同情しなくて良い。貴女の身体をそんな風にしたのも、あの子なのよ」
そうかも知れない。
月の障りが来なかった。夜会でのことを思い出し、背筋が凍った私は、医者の診断結果を聞いて、ラシュレが守ってくれたのだと思った。私は生涯、男のために腹に子供を宿せない。彼女に愛されたままでいられる。
「…………」
私はラシュレが刑場に出される正確な時間を訊くと、気分が優れないと言って部屋に戻った。
