
戦場のマリオネット
第2章 終わりなき責め苦
珍しいのは、私のような騎士だろう。
リディ様と初めて謁見したのは、見習い騎士として訓練を始めてまもなくのことだ。
…──初めまして。不束者ですがよろしくお願いします、イリナさん。
柔らかな声、清らかな白い花を想わせる笑顔で、リディ様はまるで恋人に交際を申し込まれた時のような調子で頭を垂れた。ドレスをつまんで腰を低める物腰は、当時十一歳だった彼女が既に王女として申し分ない器量であることを物語っていた。
リディ様の緩やかなウェーブの金髪が、月の光を吸い込んできた色に見えた。透き通るような肌が、大きな目が、仄かにピンクづいた唇が、美しく可憐でたまらなかった。
令嬢としての華やかな暮らしも、舞踏会やお茶会も、見合いも、貴族が当たり前に与えられるものを断念させられるアイビー家の長女に同情を向ける世間の目など、とりあうだけ無駄だった。リディ様のために生きられることを定めづけられる幸福を哀れだと思う世間こそ、私からすれば哀れだった。
どのくらいの時間、眠っていたのか。
焼けるような痛みに意識を引きずり戻されて、私は途方もない闇の中にいた。メイドの置いていった卓上ランプの明かりを灯すと、夢であって欲しかった光景が、辺り一面に広がった。
リディ様の無事を確かめなくては。
今が朝か夜かも分からない。私は今にも感覚がおかしくなりそうな下半身を引きずって、身の周りを物色する。
血だらけの寝台に石畳の床、隅っこに立てかけられた鈍器は、もしかすればかつて足許に点在するシミを散らせたのかも知れない。
すすけた文机の引き出しを開けても、鍵の代用になりそうなものは見当たらなかった。インク切れのペンなど、錠を開けるために何の役にも立たない。
