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戦場のマリオネット

第6章 乙女は騎士の剣を掲げて



 兵士達の心が動き出したのを、肌で感じる。

 イリナと私よりたった一つ歳下なのにずっと幼く見える王女は、しかしあの廃屋にいた時でさえ、目も眩むほどの気品を醸していた。

 彼女の及ぼす影響力は、計り知れない。彼女でなければ今の話は、夢物語にしか聞こえなかった。


「決起の指揮は、ラシュレに任せます」

「リディ様、それは……」


 まるい翠の双眸が、私を見上げる。信じることしか知らない目。ほんの僅かな翳りを嚙って、あどけなかったその翠は、逞しさを湛えてしまった。


「リディ様がご両親に直接お聞きになったのでしたら、この者が正当な騎士の血筋で間違いはないでしょう。しかし騎士団には、掟があります。純潔である証拠をここで見せていただけるなら、我々は彼女に従い──」

「無礼者!」


 リディの彼女らしからぬ声が、男の声を遮った。


「私がチェコラスに囚われた時、ラシュレは毎晩、私の元を訪ねてきてくれました。王女としての私を気遣って、決して冷たい水で身体を洗わせることはしなかったし、世話係のメイドも貸してくれた。私が眠るまで側にいてくれたこともあった」

「リディ、今それ言わなくて良いから」

「いいえ。貴女は私が恐ろしいことを束の間でも忘れられるよう、本を貸してくれた。着替えのドレスも用意してくれた。イリナのこと、後遺症は残さないって……私がいつもお礼言ってるのに、イリナに言えってそればかり。私は、この人が私の騎士になるはずだったのだ……と、誇りに思った。私の騎士は後にも先にもイリナだけ。でもラシュレを辱めることは、私への侮辱と見なします」


 私がリディの願いを受けるか、受けないか。

 夕方までに決めてくれと言い残し、彼女は同意した兵士達を連れて奥の部屋へ入っていった。

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