
戦場のマリオネット
第6章 乙女は騎士の剣を掲げて
「自由を賭けて、リディ様が敗けても構わないと仰るのと同じです。私はリディ様の盾になれるなら、無駄死にも愚かとは思いません。貴女を一人で行かせる方が、無謀な戦に出るよりずっと怖いです」
「イリナ……」
元々、決起自体が無謀だ。
騎士団達の危惧したように、数からして劣勢だ。規模で言えば、国家に個人が楯突くのと同じこと。
しかしリディはこの先、屈辱を受けたまま死んだように生きるだろう。
コスモシザ市民達は、遅くて三週間以内にチェコラスの国教の洗礼を受ける。人知れず女神を崇めた者は、新たに殉教を余儀なくされる。公爵家は騎士団の予算こそ必要ないにしても、戦で疲弊した国力がコスモシザ地域の負担に繋がるのは、目に見えている。
「二つの国を統一すれば、チェコラスの抱える問題までローズマリー王家が請け負うことになる。彼らの言った通り、余生は静かに暮らしたい……と、思わない?」
「家族を失くした人も、貧困に喘ぐ人も、簡単には救えないんでしょうね。でも、目を逸らしません。私の代で解決出来なくても、皺寄せは食い止めます」
「リディ様なら、出来ると思います。貴女の微笑みは国宝級だと、市民達皆が言ってます。リディ様なら、コスモシザとチェコラスを一つにして、きっとどんなに小さな声にも耳を傾けられると思います」
「……大袈裟よ、イリナ」
アレットのような女にも、権利を主張出来る日が来るのか。狭く苦しい箱庭がお前の全てだと叩き込まれ、甘い砂糖菓子で肥やされて、出荷されていく愛らしい小鳥のような令嬢達。…………
