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戦場のマリオネット

第6章 乙女は騎士の剣を掲げて



 生きてきた証を残せないのは、ありふれた生まれ育ちのありふれた身分の人間でも、恐れることだ。本当に自分はそこにいたのか。何のためにそこにいたのか。

 私は自分の証を、この手で消し去ることになる。リディの願いを叶えれば、失う。


 何もかも失くした場所でも、きっとそこにはイリナがいる。


「やるよ」

「え……」

「君が飛んで火に入るくらいなら、お姫様は私が守る」

「…………」

「イリナの意思を継いで、リディを守る。彼女の国を取り戻したら、彼女は君に返す」



 騎士団の装束をした一人が、私達に近づいてきた。胸の位置まで上げた手のひらに、特殊な彫刻の入った剣を大事そうに乗せている。


「イリナ様の剣です。砦で貴女が捕らわれたあと、我々で回収致しました。アイビー家に受け継がれてきた、こちらの銃と……。お使い下さい、ラシュレ様」


 剣にも銃にも、私のピアスと同じ石が填め込まれていた。コスモシザでは好まれているのか、オーキッドが押収したリディの装身具にも同じ石がついていたと聞いた。

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