
戦場のマリオネット
第6章 乙女は騎士の剣を掲げて
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イリナが寝息を立てる側で髪をとかすリディに外の空気を吸ってくると言い残し、私は王立資料館の地下を出た。
清々しい夏の風に、人心地つく。
澄んだ夜闇の覆ったコスモシザは、満天の銀世界が瞬いていた。吸い込まれてしまいそうに果てしない。何度も足を運んだ土地で、初めて女神の息吹を感じた。
女神の伝承にまつわる湖の方角へ、手を合わせる。
私が産まれて三年間過ごし、イリナが育った屋敷は、あの近くだ。
「ラシュレ」
振り向くと、白銀の空を背にイリナがいた。
私はイリナの腕を引いて、よくリディにしていたように抱き寄せる。
「冷えるよ。こんな時間に、出てきたら」
「そうね。寒い。だからこうしてて」
「…………」
「一人にしないで。寒いから」
入館客らが受付を待つためのベンチに場所を移した。
肩にイリナの重みが被さってきた。赤みがかったブロンドが、耳元をくすぐる。
「厳しかったけれど、私を本当の娘みたいに育ててくれた人達だった。私はこの見た目だから、非摘出子を疑う貴族達もいた。リディ様のお側にいて少しでも風当たりが強くならないように、お父様とお母様は特別に私を躾けて下さったんだと思う」
「……優しい人だったんだろうな。君の容姿を、私は羨んだことがある」
寝静まった町に目を遣って、イリナが私に詫びてきた。
こんな身体になっていなければ私を戦地へ行かせなくて済んだのにと、彼女の気性をそのまま投影した風な顔が、悔しげに歪む。
