テキストサイズ

戦場のマリオネット

第6章 乙女は騎士の剣を掲げて



「有り難う。アレットみたいなことしたくないもの。もっとも、あの子は本当に貴女を愛していたみたいだけど」

「そっか……」


 後ろ暗さがないとは言えない。チェコラスに残してきたのは、偽りの思い出ばかりではない。だが迷いは、きっと最悪の後悔を招く。


「ラシュレ」

「ん?」

「貴女に預けたのは私の剣。私の銃。リディ様を守るために、私が携えてきたもの。だから貴女は、背負わないで」


 イリナの凛とした声が耳を撫で、染み込むように胸に落ちてくる。


「たとえ血の海が広がっても、それは私のしたこと。私が、引き受けるから」

「…………」


 戦うことなど、あれが最後だと思った。コスモシザを陥落させて、イリナに彼女の居場所を返すつもりでいたあの日が。

 居場所がないのは、彼女も同じだったのに。

 イリナの頬を片手に包んで、おとがいを撫でる。星を映した清廉な眼差しを受けながら、私は彼女の鼻先に唇で触れる。頬に触れる。唇の限りなく近くに触れて、心なしか緊張した肉厚の二枚の花びらをキスで塞ぐ。


「…………」


 とろけるような薄目で舌を差し入れようとしてきた彼女の肩をやんわり押さえて、吐息をほどいた。


「我慢出来なく、なる……。戻ろう。今夜は休むよ」


 あの日とは違う。今は朝が待ち遠しい。その次の朝も、そのまた次の朝も、イリナと迎える時の全てが。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ