
戦場のマリオネット
第6章 乙女は騎士の剣を掲げて
私の肩に両手を置くイリナに、少女のような顔が浮かぶ。
今度こそ泣きそうな目を見開く彼女は、彼女の愛する女王のようにか弱げで、胸が締めつけられるほど可愛い。
理解り合えないと思っていた。彼女とは相容れないと。
だから一方通行で構わなかった、この想いに気づけただけで幸せだった。
それだけではもう足りない。
「イリナしか、ダメだ。君にも私にも、居場所なんかなかった。私が君の居場所になる」
「ラシュレ……」
「…………」
「愛してる……。私も、愛してるの。ラシュレの居場所になる。貴女に微笑む女神になる。だって私はトレムリエのはしためで、貴女の運命なんだもの」
「有り難う、イリナ」
白い石の艶めくイリナの左手に、私は騎士が姫君に施すようなキスを落とす。
「君だけを愛すると誓う」
二人を見守る白亜の女神を囲った水が、絶え間なく小川に注いでいる。清流の涼を受けた花々が、また、風に揺れて微笑んだ。
戦場のマリオネット ──完──
