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戦場のマリオネット

第8章 救済を受けた姫君は喉を切り裂く【番外編】



「私はあの方に従うのみですが、その上で此度の決定、伯爵の意図が分かりかねます」

「何故、それを私に?」

「伯爵は──…隊長は、イリナを絶命させるなと仰せになりました。彼女の禁足はこの屋敷内。伯爵自ら彼女を説得なさった方が、無血で手懐けられるのではと」

「アイビー家は、たとえ鉄の処女に入れられても王家への忠誠を貫くと聞く。父自らの交渉より、貴方や私に信頼を置かれたのでしょう。非道な点でも、理性の面でも」


 この国、チェコラス内部でのイリナという女は、謂わば悪魔の代名詞だ。人選を誤れば、彼女を捕らえても屈服どころかコスモシザの軍事機密一つも吐かせられず、怒り任せに手にかけてしまう隊員が出るだろう。その点、目の前の男や私は身内を騎士団に殺されたこともなければ、特筆すべき恨みもない。


「イリナ・アイビーが我々に牙を向けたとでっち上げれば、責め苦による事故が起きても、伯爵は目を瞑られるかと存じます」

「ジスランさんも、彼女に恨みがあったんですか」

「いえ。ただ、彼女はコスモシザの軍人です。そうである内に、始末しておくべきかと」

「…………」


 数々の修羅場をくぐってきた大男の目は、まるで叔父か何かが若い姪でも見守るようだ。それが私に向けられた時、自然と彼の意図が読めた。

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