
戦場のマリオネット
第8章 救済を受けた姫君は喉を切り裂く【番外編】
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日曜礼拝の讃美歌が聞こえる。
春先の朝風は寒気が残って、金色の滲んだ青空とは似ても似つかない。
基督教信者達も同じだ。神を信じてもいないのに、表層だけは神だの聖母だのを讃える。本当に死後の世界を信じていれば、昔、ミリアムを襲った男のような人間はいないはずだ。
「お姉様?」
鈴を鳴らすような声に振り向くと、綻びかけた花々を背にしたアレット・オーキッドが、メイドにパラソルを預けていた。もう一方のメイドの荷物を見るに、授業からの帰りらしい。
萎縮するメイド達から、私はアレットの荷物を引き受けた。姉妹水入らず彼女の部屋で過ごしたい旨を告げると、メイド達は諦めて、他の仕事に向かった。
「お姉様があんなところに一人でいらっしゃったなんて。お花見でもされていたの?」
「まさか。アレットが来るまで、眺めて飽きない花は見当たらなかった」
「私は花じゃないわ。でも、早めに授業が終わって良かった。嫌いな授業ではなかったけれど……。ねぇ、経済学なんて、私が女じゃなかったら、もっと色んな役に立ちそうよ。花嫁修行の一環だから気が滅入る。お金のことを学んだって、嫁ぎ先の私産を管理させられるのに役立つだけなのに、知識だけは叩き込まれるの」
他愛もない会話を続ける内に、私達は彼女の私室の前に至った。
