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戦場のマリオネット

第8章 救済を受けた姫君は喉を切り裂く【番外編】


 贅を尽くしただけにとどまらない、華やかな色彩が彼女好みの調度品に馴染んだ部屋は、私にとっても居心地が好い。何せ私の屋敷にいる時間のほとんどは、彼女がいる。


「着替え、手伝うよ」


 アレットを包んでいた薄手の外套をトルソーに預けて、私は彼女の後方に回る。彼女の赤みがかった金髪を後ろファスナーに挟まないよう、後れ毛を払うと、うなじの体温に指先が触れた。


「下ろして、良い?」

「手伝って下さるんでしょう」 


 頷く彼女の声音には、完膚なきまでの信頼がこもっていた。

 外套に合わせたくすんだ薄紅色のドレスの袖に隠れていても分かる細腕、釣鐘型を象るジャガードの裾の大胆な広がりを強調するウエストは折れそうに華奢で、無駄な肉づきの一切ない彼女の身体は、それそのものが装飾品だ。ドレスの下は、二十歳にしても熟れた女の曲線が描かれている。それを私は数えきれないほど見てきた。


「こっち見て」

「ん……」


 意図せずうなじに触れた指を、今度は意図して彼女の肌に滑らせた。後れ毛の生え際から首筋へ、そしておとがいへ。彼女の顎を軽くつまんで、首を動かした彼女の唇をキスで塞ぐ。

 重々しいドレスのファスナーを下ろすと、細く丸い肩が現れた。
 私は彼女の曲線の名残りを保っていた春色のドレスを今度こそ下ろして、コルセットの編み上げをほどく。
 煩わしい。レビュタントを済ませた女の大半は、こうして胴まで締め上げられる。それをようやっと外せるようリボンを除くと、身軽になった彼女に下着らしい下着とパニエだけが残った。

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