
戦場のマリオネット
第8章 救済を受けた姫君は喉を切り裂く【番外編】
正午にもならない時間に一つになった私達は、じきにメイドが昼餉を知らせに来るのに備えて、支度を始めた。
「さっきの花嫁修行の話。起業すれば、授業も役に立たない?」
「オーナーになる貴族は珍しくないものね。それも仕立て屋を出せば、洋裁の授業も使えるわ」
身軽なドレスに袖を通したアレットが、三面鏡に場所を移した。
オーキッド家の人間に顕れがちな、深い掘り、強気な眼光、尖った唇。…………
それら全て備えた彼女の美貌も、ここ一年、よく霞む。婚約が現実味を帯びてからだ。
「どうせ見合い話はなしになる。コスモシザが手に入れば、君は国力のために外国へ行かなくて良くなるから」
「勝利を確信されているのね。お姉様らしい。でも、……」
鏡に映ったアレットが、近くにいた私に目を向けた。
こうも似ない姉妹がいるのか。私自身でも思うのに、下世話な憶測を立てたがるような貴族達は、ほとんどいない。
「何かお悩みじゃなくて?」
気のせいだ。そう言ってあと数秒否定が遅れていれば、勘の鋭い彼女のことだ、化粧直しより私の詰問に意識を傾けたかも知れない。
