
戦場のマリオネット
第8章 救済を受けた姫君は喉を切り裂く【番外編】
次の挑戦者とミリアムは、模擬戦に制約を設けなかった。剣での攻防を繰り広げたのち、男が空弾の銃を出した。その隙に、彼女が巨体の間合いに入った。男を二の腕から持ち上げて、体勢を崩しにかかった彼女。男が持ち直す前に、剣の鞘が彼の握力を鈍らせて、銃と剣がその手を離れた。
「次、さっき手を挙げたのはドゥリカ卿でしたね?!」
おそらく辞退を検討していた三人目の隊員が、目を泳がせた。が、いつ実戦が始まるかも分からない、少なくともコスモシザの砦の襲撃を近日中に控えた今、ドゥリカと呼ばれる男もあからさまに怯めなかったようだった。
ミリアムの気が立っているのは明白だ。
イリナ・アイビーを捕らえたあとの作戦は、おそらく彼女からすれば害悪だ。いくら獲物がコスモシザの騎士で、結果を出せば軍人として功績になるとしても、一人の女を禁足して、人間としての尊厳を取り上げる。そして女の性を辱めることもあり得る体罰。それは、彼女が最も忌み嫌う所業に通じる。
検討するまでもなかった。
やはり人事を改めるべきと判断した私は、小休憩を挟んだのち、彼女を人目につきにくい場所に呼んだ。
だが、人選の撤回を伝えた私に彼女の示した反応は、思いがけないものだった。
「隊長まで……裏切るんですね」
いよいよ病人のような顔色で、ミリアムは沈痛な面持ちを見せた。
そんな彼女の気鬱がイリナとは別のところにあったと知ると、私はここ数日間持て余していた悩みこそ、彼女を追いつめる危険性を伴っていたのだと省みることになる。
