
戦場のマリオネット
第8章 救済を受けた姫君は喉を切り裂く【番外編】
「誰に文句も言わせないよう、努めてきました。男以上に。だけど、どこで何をしたって、女は捨て駒じゃないですか。貴女みたいに名家のお生まれでもなければ、軍にいても女は女に過ぎません」
「…………」
ミリアムは出世を狙っている。おそらく誰より強欲に、ぎらついた獣の目をして。
女に向かう軽視を憎んで、生家にも失望している。爵位ある家の令嬢という肩書きを見限って、自身で切り拓いた将来にこそ救いがあると盲信する彼女から、私はその機会を摘むところだったのだ。
「ごめん、君に嫌な思いをさせたくなかった。ミリアム以上に頼れる部下に心当たりはないし、あの件は、残ったブリーズさんと私で進めていけば良いと思った」
「いえ、お心遣い、恐縮です」
それからミリアムが話し始めたところによると、彼女の気鬱は、親族が原因らしかった。
十代の時、彼女は強姦によって孕んだ。堕胎して、後継者を産める望みの薄い身体になった彼女に、周囲は白い目を向けた。それが彼女の従軍を志したきっかけだ。
ところが先日、親族達が彼女に名門貴族との見合いを提案した。一度は彼女に「使えなくなった」と吐き捨てまでした彼らの、今更その彼女を家のために消費しようとした魂胆が、彼女を失意に堕としたのである。
「隊長は、オーキッド家の家訓に疑問を持たれたことはありませんか」
ミリアムとの付き合いは長い。その彼女からこうした問いを受けたのは、初めてだ。
