
戦場のマリオネット
第8章 救済を受けた姫君は喉を切り裂く【番外編】
私は、すぐに否定出来なかった。アレットの件で、既に疑問は持っている。彼女のためにコスモシザを狙っている私の実意は、チェコラスへの忠誠心とは重なり難い。
それでも──…。
「疑問を持てば、反逆呼ばわりされるだけだ」
模範貴族が自己を戒める時の定型文を復唱しただけのような回答に、育ちの良い彼女は納得した。慇懃な一礼を残してもと来た方角へ去っていった後ろ姿を眺めていると、男が一人、物陰から出てきた。
「白々しい嘘ですね。鵜呑みにするなんて、彼女、隊長のこと好きすぎるんじゃありませんか」
軽口を叩くこの男は、クロヴィス。彼も部隊の一員だ。ミリアムを恋慕いながら、彼女にまつわる噂から、本心を告げればきっと彼女を傷つけると予見して、秘匿を心に決めている。このチェコラスでは珍しい。
「あ、お話が聞こえたのはそこだけですよ。お帰りが遅いので、何かあったのかと思いまして」
「いや、時間をとらせてしまって……」
訓練場へ足を向けた時、つと、クロヴィスの篤実な横顔が、私に興味を湧かせた。
「他の女性を見たいと思ったことはない?」
唐突な私の質問に、この年端の男にしては大きな目が見開いた。
