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戦場のマリオネット

第8章 救済を受けた姫君は喉を切り裂く【番外編】



「彼女は男を憎んでる。もしかすれば女も。……お前は誠実で相手思いだ。それだけ人を愛せるなら、お前自身の幸せに貪欲になって良い」


 ミリアムは、どこにいても女は女に過ぎないと言った。軍人として重ねてきた歳月が報われなければ、きっと彼女は救われない。

 だが、社会に消費されるのは男も同じだ。結婚か従軍か、両方か。昨今は多少の選択肢も増えたが、型を外れれば風当たりは強い。クロヴィスは、いつまで不毛な恋を続けるのだろう。


「お恥ずかしながら、一生です」


 迷いを感じない返答が、草木を揺らす風の音も澄み渡らせた。


「何かを得られるなんて、ひと握りの人間だけです。女性も男も、分が悪いのは同じです。私は戦で名を上げられる自分が想像出来ませんし……貴女や彼女を超えない限り。下手をすれば、明日にも命を落とす可能性もあります。彼女の心も得られません。ただ、そんな散々な人生だったとしても、満足だと言い張ります。彼女を傷つけず、友人として記憶に残れるでしょうから。貴女も私をお忘れにはならないでしょう。私は長男ですから、いつかは見合いも免れません。しかし彼女を好きなこの瞬間は、ラシュレ隊長も証人になって下さいますよね」


 感心するほど悲観的なクロヴィスに、私は潔ささえ覚えた。チェコラスで正気を保って生きるのには、彼ほどの諦念が必要だろう。

 人間は、自身の生死に何か意味を付けたがる。

 それが他人から見て無意味でも、もとより世界が無意味なもので出来ている。

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