
戦場のマリオネット
第8章 救済を受けた姫君は喉を切り裂く【番外編】
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絵に描いたような成功が、私達を待っていた。
イリナ・アイビーはオーキッド家所有の塔に入れられて、彼女の愛する王女の方も、侵略先の貴族に扮した兵士が拐ってきた。
彼女達を捕らえて一週間経つ。
避けて通れなかった拷問や、頻発する両国衝突による殺生も、身構えていたほど私に罪の意識を持たさなかった。
地獄は恐れない。神のいない世界に生きる私には、死後の贖罪もないかも知れない。
改宗を拒むイリナと論戦を続けるほど、私の神への反発心は、余計に輪がかかったのもある。一方で、彼女の血や体液の匂いが常につきまとうようになり、チェコラス臣下としての勤めを終えて独房を出る時、信心深い彼女の声が、いつもしばらく耳の奥にこびりついて離れない。
もし地獄に堕ちるなら、それは人為的な呪いだ。戦場でこと切れた軍人達の肉塊の弾力が手に残るのと同じことで、彼らを待つコスモシザの家族の悲嘆が不吉な風を運んでくるのと同じように、彼女の恨みが私を咎める。
「口だけ達者な男達は腰抜けだわ。だからお姉様やミリアムさんにばかり負担がかかるのよ」
化粧した女特有の香りも凌駕する官能的なそれが、私の臭覚を酔わせた。いや、頭がくらりとしたのは香りのせいではない。後方からまといついてきたアレットの腕の重みのせいだ。
