
戦場のマリオネット
第2章 終わりなき責め苦
「そう。命は無事さ。ただ国へ帰しても、君の騎士にはもうなれないよ。コスモシザの風習は厳しいからね。これからも彼女を生かすには、カトリックの洗礼を施して、チェコラス君主に跪かせるより他にない。異存はないね?」
「リディ。あの者は貴女の国の女神ではなく、ラシュレ隊長に女の蕾を開かれた。でも幸いだったのよ。騎士の資格をなくしたんだから、我が国に従えば死ななくて済む」
無論、ミリアムは私に口裏を合わせているだけだ。
イリナを絶命させることを、オーキッドの当主は許可していない。
「私は……」
「申し訳ありません……リディ様……申し訳ありません……」
「イリナ」
「お忘れになって下さい、私のことなど……」
「ラシュレ隊長。これではリディが可哀相です。もう一度、私がイリナの気持ちを確かめましょうか」
「ああ、任せる。さっき頼んだ通りにやってくれ」
私は、ミリアムからリディを引き受けた。
見るからに動きにくそうな重々しいドレスに包まれた華奢な身体は、ぐったりとしていても、ほとんど重みを感じない。一昨日からシャワーも浴びていないはずなのに、気味悪いほどの馨しさが鼻腔をくすぐる。
「ラシュレ様……イリナを……どうか……」
囚われ先で微笑みを浮かべた姫君は、やはり私を振り返って上目に見ると、愛らしく眉を下げた。
昨夜の違和感が蘇る。
年頃の令嬢に色目を使われることは日常的でも、さすがに相手がリディとなると、理解に苦しむ。
